世界的な人材獲得競争

まず自分が日本人であることを一端忘れて次の事を考えて下さい。先程の記事で紹介したような職場と、あなたが想像する一般的な日本企業、もしくは労働条件が良いと思われる日本企業を比較した際にどちらの企業で働きたいですか。自分が日本人ではなく、外国人だと思って考えてみてください。

私が先程の記事で紹介した米国の金融機関は、短時間で成果が出るようにしっかりと経営がされています。だから基本的には午後5時で帰れます。おまけに仕事が忙しくない時はVideo Game大会など、おおっぴらに息抜きをして良い会社です。そしてまた報酬も一般的な日本企業よりも高くて、かつ年に5週間の休暇を取る事が出来ます。一方、日本企業の労働条件・労働環境についてはみなさん自身で想像してください。

そしてここで問題提起をしますが、この2つの会社を日本人以外の労働者が比較した際にどちらの企業を選ぶのでしょうか。特に、日本語が話せずに英語を使える優秀な労働者を想定してみると、結果は明らかだと思います。

ここで経団連の報告書を紹介します。経団連は他国から競争力ある人材を日本に連れてこなければならないとこの報告書で強く訴えています。

他国から優秀な人材を連れてきて、斬新な製品/Serviceを開発すること、そしてそれらを日本以外の市場、特に新興国で売らなければならない。これが出来なければ日本は競争力を失っていく、この事を実現するために国際的な競争力を持った人材を育て、確保しなければならないという主旨の事が報告書に書かれています。

私が危惧しているのは、他国が日本企業よりも高い報酬・より良い労働条件を提供した場合に、それでもあえて日本企業を選ぶ日本人以外の人材がどれだけいるのかということです。彼らが日本と他の国を比較した際に、サービス残業や過労死(Karoshiは日本発で英語になりました)なんて言葉が存在する国で働きたいと思うのでしょうか。

日本人だけが、日本語で、日本国内だけを相手に商売をしてやっていけるのならそれで良いと思います。でもそれではやっていけない、他国からも優秀な人材を確保しなければならない事は経団連報告書でも述べられています。

現在私が抱いている強い危機感は、日本人男性しか働きに来ないような職場環境(他国と比べて長い労働時間・家族と過ごす時間が少ない・過労死が発生する)で、iPhoneのような斬新な新製品開発が出来るのか、新興国の市場開拓が出来るのかというものです。例えば、私がこれまでblog記事で紹介してきたNYCで働く優秀な人達は現在の日本企業の労働条件では絶対働きません。ここで一人具体例を挙げると、Noahの上司の管理職は米国人ではありません。彼女はアフリカから来た黒人の中年女性で現在子育て中です。そんな女性が日本で一般社員の上で管理職として働く姿をあなたは想像できますか。

子育てによって退職を余儀なくされた日本人の女性、新卒採用から漏れた既卒者を持て余している日本企業。そんな日本企業が日本人以外の人材を上手く使いこなす事ができるのでしょうか。加えて他国からの労働者は日本語が通じませんし、日本人の微妙な常識が通じません。女性や若年労働者を扱うのよりも段違いに難しいです。

厚生労働省「平成18年度女性雇用管理基本調査」によると配偶者有り(出生あり)の場合において86.7%の人が「出産・育児」を理由に退職している。 雇用の常識「本当に見えるウソ」66頁

既卒者を受け付ける予定がない企業は58.8%であり、「新卒者で充足している」が主な理由であった。 日本経団連タイムス No.2993 (2010年4月15日)

そして、他国から優秀な人材を連れてくるためには、私がblog記事で紹介したような職場環境を提供する事も必要になってきます。なぜなら日本以外の国で現にこの条件を提供している会社が数多くあるからです。加えて、米国と英国では日本のように一つの会社にずっと留まること無く、良い条件を提示された場合は転職してしまいます。(※補足説明 EU諸国の平均勤続年数は日本と同等かそれ以上 厚生労働省「賃金構造基本統計調査2007」より 雇用の常識「本当に見えるウソ」 16頁参照。また、他のAsia諸国の統計資料は発見できませんでした。私の推測だとAsia諸国は転職率が米英並に高い国が多いと思います。)

次に視点を少し変えます。まずは下記の記事を読んでみて下さい。

「コミュニケーション力」を重視とあるからてっきりTOEIC 860点くらいの語学力を求めているのかなと思ったら、「語学力」は別枠でありました。語学力を重視する割合はたったの「3%」です。国外の市場を開拓するために、また多様な人材と仕事をするための必要条件の一つである英語能力を求めない企業がまだ圧倒的多数だと分かりました。一方韓国の有名企業は新卒者に対して高いTOEICの点数を採用条件の一つとして挙げています。最近、日本でも何度か特集されたことがあるので御存知の方は多いかと思います。

そしてまた、日本企業は英語が出来る外国人ではなく、日本語が出来る外国人に来てほしいのです。「日本語が出来る事」を多くの企業が採用条件に挙げていました。だから日本語があまり出来ない留学生を活用出来ていません。そういった理由から、日本の大学を卒業した留学生の日本での就職割合は1割未満です。つまり「英語を話せるが、日本語を話せない人材は要らない」と言っているのです。

世界の日本語学習者は約300万人です。一方、英語人口は 第二言語 (English as a Second Language; ESL) として用いる人口だけを考えても、100倍以上の約4億人に上ります。日本語を話せる外国人300万人と英語を話せる数億人の人間を比較した場合、どちらの集団に優秀な人材が集まっているかなんて考える必要も無いです。

国を越えた人材獲得という視点で考えると、現状で明らかに他国から差が付けられている状況にも関わらず、「俺たちが若い頃苦労したんだからお前たちも同じ苦労をしろ」「仕事は厳しくて当然、労働環境が悪くても10年は泥のように働け」という日本人同士でしか通じない内向きの発想をしていて良いのでしょうか。それで日本人以外の優秀な人材を雇用できるのなら良いのですが、それは無理だと思います。

ここからは話題を変えて、積極的に海外進出に乗り出している企業を紹介します。

日本人が、日本語で、日本市場だけを相手にするという「パラダイス鎖国」に引き篭っていてはいけない、そう考える企業は海外市場重視の戦略を打ち出しています。私も留学中に実際に日本人以外の優秀な人材と出会って、そしてまたそれら優秀な人材を、しかも米国人であるかどうか問わずに、日本企業よりもずっと効果的に活かす米国企業を目の当たりにしました。その経験が先の記事やこの記事を書くきっかけになりました。そしてまた、もし私が日本の事なんてどうでも良いと思っているのなら”日本語”じゃなくて”英語”でblog記事を書いています。ただ私は日本で生まれ育った日本人なので、他の日本人に読まれるように日本語でblogを書いています。昨日の記事はこういった思いから書いたのですが、私が暗に伝えたかったことが全く伝わっていないと分かったので、改めてはっきりと伝わるようにこの記事を書きました。

日本人男性、女性、若年労働者、熟年労働者、障害者、そして他国からの優秀な労働者、移民達。彼らが協力して働いて、お互いの強みを発揮出来る職場。私はこういう職場が日本でも実現される事を、そして日本が競争力を回復する事を望んでいます。これらを実現するために何が必要なのか、この記事を読んだ方は日本国内だけでなく世界中を見渡した上で考えてみてください。

【お願い】この記事が面白いと思った方ははてなブックマークへの登録をお願いします。(Link先ははてなブックマークへと繋がっています。)

関連blog記事

この記事で書かれている内容をさらに補足する記事を書きました。日本型雇用の問題点について関心のある人は以下の記事を読み進めて下さい。

この記事を書くのに手助けとなった参考資料

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly
  • LINEで送る

執筆者
柴田 はるじぇー @HAL_J
  • twitter

柴田 はるじぇー @HAL_J

セブ島にある語学学校サウスピークの英語学習アドバイザー。著書に「3ヶ月でTOEIC300点上げるフィリピン留学」「20歳を過ぎてから英語を学ぼうと決めた人たちへ」