近年の安定思考故か、最近ますます医学部を目指す高校生の方が増えているようです。特に地方の公立トップ校では、周りを見渡すと医学部志望の学生ばかりということもあるでしょう。

では、実際に医学部に合格するために必要な英語力とはどの程度なのでしょうか?現役医学生でありTOEIC 950点、IELTS Academic 7.0を取得している元・サウスピークインターンのShunが解説します。

(目次)

医学生の英語力の実態
入試科目としての英語の難易度
英語と他の科目との兼ね合い
それでも英語は勉強すべき
合格するために必要な英語力は?
受験英語×TOEIC
医学部入学、そしてその先へ

医学生の英語力の実態

医学生といえば、厳しい受験をくぐり抜けてきた学生なので英語は当然かなりできるだろう…と思っている方も多くいるかもしれませんが、実態としては実は医学生は意外と英語力はそこまで高くありません。

一口に医学生と言っても、大学によって入学試験の難易度の幅があるので、当然学生の学力も異なります。そして個人間でも得意科目・不得意科目はあるので大きなばらつきはありますが、僕が現在所属している医学部の学生、また高校の同級生などで他の医学部に進学した人たちからある程度の傾向は掴めるので、やや乱暴ではありますがまとめると以下が平均的な英語力と言えるでしょう。

地方国公立大医学部:TOEIC500~700くらいがボリュームゾーン。
私立大医学部:TOEIC500-700くらいがボリュームゾーン。
旧帝大医学部:TOEIC600~800くらいがボリュームゾーン。
東大・京大・阪大医学部:TOEIC800〜がボリュームゾーン。
(いずれの点数もTOEIC L&Rを無対策で受けた場合の点数です。)

地方国公立大医学部、私立大医学部

やや括りが大きいので大学毎に差はあるのですが、地方国公立大医学部と私立大医学部は500-700点のあたりに最も多くの学生が分布しているでしょう。単純な内容しか英語で伝えることはできず、多くの場合、外国人と2人きりにされると困るレベルの英語力です。

なお、私立大の学生の方が海外旅行などの機会に恵まれていることが多いので、英語を使うことに慣れている分、実際のコミュニケーションは円滑である傾向があります。

ちなみに僕が所属しているのも地方国公立大ですが、入学直後に受けるTOEICで730点以上取得すれば1年次の英語の授業が免除になります。その基準を超えるのが全体の1/5~1/6くらいでしょうか。全員がそこまで真面目に受けているわけではないので、本気でやればもう少し増えるかもしれませんが、現状としてはこれくらいです。

旧帝大医学部

旧帝大医学部になるとやや全体の平均点が上がって600-800点のあたりがボリュームゾーンでしょう。ただし、このレベルでも英会話が自信を持って行える学生は一握りです。文章を読むのはそれなりにできるが話せない状態で、帰国子女もそこまで多くはありません。1学年100人程度の中で多くても10人まではいかないでしょう。

東大・京大・阪大・慶応医学部

東大・京大・阪大・慶応の医学部になるとTOEICでは800点以上がボリュームゾーンでしょう。また、これらの大学の医学部においては帰国子女の割合も他のカテゴリーに比べ明らかに高くなってくるので、英語を使ったコミュニケーションも円滑に行える学生の割合も増えてきます。すぐにでも問題なく留学できそうな英語力の学生も散見されます。

大学間、個人間によってもばらつきがありますが、上記がそれぞれの大学の学生と接していて感じる平均的な医学生の英語力です。

入試科目としての英語の難易度

医学生は意外と英語ができない、と言いましたが、それは学生個人の資質の問題というよりは、入試科目としての英語の難易度が関係しているでしょう。

一般的にはそれぞれの大学・学部において要求される偏差値が高くなるほど、入試の問題自体も難しくなります。しかし、英語においてはある程度のレベル以上では入試の難易度が変化が無くなります。

このように入試の英語においては一定以上の英語力を持つ人の点数が変わらない状況が生まれています。

京大などの一部大学を除くと、英語自体は一定以上に難解になることは近年では少ないです。

では、何が各大学の英語の入試問題の難しさを分けているかというと、国語力が必要とされる程度の違いでしょう。

入試英語においては要約や論旨一致などの設問が多く、英語は読解できている前提で、その上で筆者の主張や文の内容を正確に読み取ることが要求されます。この国語力がどの程度必要とされるかによって、問題の難易度が変わってくるのが近年のトレンドです。

この国語力を求められる英語の入試問題の筆頭として挙げられるのが東大の入試問題でしょう。

実は、東大の入試問題は英語自体はそこまで難しくなく、標準〜やや難といったレベルの文章からの出題が多いですが、筆者の主張する内容を余すことなく回答に落とし込もうとすると苦労する類の問題です。


東大の英語の問題の一部分。解答には英語力だけでなく、国語力も必要とされる。

このように「英語力+国語力」が測られているのが入試の英語であり、英語力自体はある程度のレベルまでで十分となるので、さらに進んだ学習へと繋がりにくいという事情があるでしょう。

実際に医学部に合格している人の成績開示の結果を聞いてみると、英語の試験ではかなり高得点を取得している人が多いです。

英語と他の科目との兼ね合い

さらに他の受験科目まで視野に入れるとより鮮やかな対比に気付きます。

というのも、英語とは異なり、理系科目においては大学の偏差値に比例して問題の難易度も天井無しで上がっているためです。(中には理系科目においてもある程度のレベル以上は出題されていない、と感じる方もいるでしょうが、ごく一部です。)

英語以外の科目では、学力差があるにも関わらず点数に差がない範囲は英語の得点分布に比べ狭いです。

多くの医学部では2次試験の理系科目(数学、理科)においてかなり難解な問題が出題されることも多いです。入試の成績開示においても、英語に比べて理系科目は得点率が低い方もかなり多いでしょう。

それら理系科目への対策に時間をかける必要があるために、ある程度の英語力があればそれなりに戦える点数を取ることができる英語への対策は後回しにされることも少なくありません。

より差がつきやすい部分に重点的に時間を使う、という限られた時間の中で勉強をする受験においては必要な戦略の1つでしょう。

それでも英語は勉強すべき

では、他の理系科目を優先した方がいいかというと、それでも英語は勉強すべきだと声を大にして言いたいです。

もちろん理系科目が全然できないと話にならないのでそちらの勉強もしっかりとしてください。その上で、英語が得意だと、入試が非常に楽になります。

なぜかというと英語は裏切らないからです。

理系科目の問題においては、非常に難しい設問だと、かなりできる受験生の平均点も全然理解していない受験生の平均点も共に0点に近い問題もあります。このような場合実際の学力にかなりの差があっても、問題が難しすぎてその差を測ることができていません。

しかし、英語においては全員が全員間違うといったような問題はほぼなく、問題数も多く、1設問あたりの配点も小さいために、きっちりと学力差がグラデーションとして表れる場合が多いです。

ですので、英語をしっかりと勉強しておくことで、他の受験生に対して常にアドバンテージを持って試験に臨むことができます。やや水物でもある理系科目と比べて、英語は保険となりやすい科目なので、保険はかけておいた方がよいでしょう。

合格するために必要な英語力は?

上記のような現状を踏まえて、どの程度の英語力が医学部合格に必要とされるか地方国公立大医学部を狙う場合で考えてみましょう。さらに上のカテゴリーを狙う人は、もっと勉強してください。

理想としてはTOEICでいえば800点以上です。現実的に戦えるレベルとしては600点以上でしょう。


2016年にTOEICを受験した学生(高校生なども含む)の得点分布。

もちろん英語が得意であればあるほど好ましいですが、ひとまずの目標としてはTOEIC 800点です。というのも、それ以上英語ができても問題がそれほど難しくなく、皆満点近くになってしまい差がつかない場合があるためです。

また、現実的に他の受験生と勝負になる英語力としてはTOEIC 600点程度ではないでしょうか。この程度の英語力があれば英文の読解に関しては他の学生と同様程度できるでしょう。

もちろん、これよりも低い英語力でも他の科目で巻き返す人もいますが、それは賭けでもあるので、最初から賭けに出ることを考えるよりは安全策を考えた方が賢明でしょう。

受験英語×TOEIC

「受験英語は役に立たない」

しばしば耳にするフレーズではないでしょうか。しかし、少なくない時間を受験英語に費やしてきた身からすると、聞き捨てならないフレーズです。実際、受験英語は役に立たないのでしょうか?

もちろん、そんなことはありません。

確かに受験英語だけで英語を話せるようにはならないかもしれませんが、英語の基礎を作ることにはかなり役立ちます。

多くの場合は「受験英語は役に立たない」のではなく、そう主張する人自身が「役に立つレベルまで受験英語をやり込めなかった」と言った方が正確でしょう。


僕が受験時に使っていた参考書の一部。
どんな形であれ、しっかりとした文法力と単語力を身につけることは英語学習の役に立ちます。

その証拠にTOEICなどの他の試験においても、英語力の根幹となる部分がしっかりとできていればさほど対策をしなくても高得点を取ることが可能です。

実際に、僕は大学入学直後に受けたTOEICで910点を取得しましたが、その時はTOEICの問題形式すら知らない状態での受験でした。何も対策をしないで受けたTOEICです。高得点を支えたのは紛れもなく受験で培った英語の基礎知識でしょう。

逆に考えるとTOEIC、英検など様々な英語力の指標となる試験の対策で培った英語力を受験へと生かすことも可能です。確かにそれぞれの試験において独自の色はありますが、そこにこだわるよりも根底をなす英語力の強化に繋がるので、受験における英語においてもよい影響を与えるでしょう。

そして入試において必要とされているのも、形式が変わった程度ではビクともしない、どのような文章にも対応することのできる確かな基礎力です。

また、TOEIC以外にも実際の英会話やIELTS、TOEFLといったより実践的な試験の対策に必要な基礎を養ってくれるのも受験英語です。

試験の点数は取れるのに実際に話すことができない、と揶揄されることもある受験英語ですが、受験英語そのものが問題であるのではなく、現在の教育制度の中では英語を使って実際に話す機会がなかったためでしょう。


実際に話す訓練を積むことも重要です。

英語を使って話す機会を与えられれば、その問題は解決する場合が多いです。実際にサウスピークに留学にくる方を見ていても、受験で基本的な英文法の理解がしっかりしている方、あるいは事前学習でしっかりと文法の学習を終えてから留学にきている方はスピーキングの伸びも大きいです。

このように決して受験英語は無駄ではないので、貴重な高校時代の内、少なくない時間を使って学習するのですから、しっかりと英語の基礎を固めるつもりで受験英語に取り組むのがよいでしょう。

医学部入学、そしてその先へ

あれだけ受験で勉強させられた英語です。入学後もさぞ使う機会が多いのかと思いきや、解剖などの医学用語の暗記を除けば、ほぼ英語の勉強はせずに6年間の学生生活を終える医学生が多いでしょう。

働き出してからもカルテは今や日本語で書くのが一般的な時代ですし(ドイツ語で書いたりすると情報開示の時に面倒なのでしません。そもそもドイツ語で医学用語を習う医学部は今の時代ないでしょう。)、英語を使うのは論文を読む時、書く時くらいでしょうか。

論文と聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、専門用語さえ分かっていれば比較的簡単に読むことができるので、英語で書かれた大衆向けの小説などの方がよっぽど難しいです。


医学関連の立派な洋書もありますが、日本語訳も出ている本がほとんどなので、学生の間に読む人は少ないです。

では、英語を勉強しておいたことが役に立たないかというと、そんなことはありません。

特に留学したい方にとっては大きな武器になるでしょう。

医学部には驚くほど優秀で、どう考えても競った時に勝ち目がないように思える人も稀にいます。医学留学と聞くとそのような超優秀な人達が行くようなイメージであるかもしれませんが少なくとも学生の間はそうとも限りません。

もちろん学内選考などはあるでしょうが、医学生の平均的な英語力がそれほど高くなく、英語力のフィルターだけでかなりの人がふるい落とされます。

ですので、たとえ目の醒めるような良い成績を持っていなくても、英語ができるだけで留学の椅子を争うことができます。と、いうよりもそこまで留学を希望する人が多くないので、留学の意志があり、英語ができればかなり留学に近づくことができます。


 Universiti Brunei Darussalamでの留学中の1枚。ブルネイ人の医学生と共に。

実際に僕も2年次にはUniversiti Brunei Darussalamに5週間医学留学できましたし、6年次にイギリスの病院で6週間程度の臨床実習参加に必要とされるIELTsのスコアも取得することができました。(もう少し上位の大学を狙いたいのでIELTsに関しては継続して学習中ですが。)


留学で出来た友人とマレーシアへ登山へ。

また、しっかりと英語で意思疎通を図ることが出来れば、留学の時の交友関係を維持することも可能でしょう。実際に僕も留学の翌年にブルネイ人の友人と旅行に行ったりもしましたし、今でもたまにメッセージのやりとりをしています。

もし、英語での十分な意思疎通が出来なければ、このように留学で広げた交友関係も保っていくのが難しいことが多いでしょう。

このように地道に英語の学習を続けていると、留学やプライベートに関して幅広く道が開ける場合も多くあります。これから医学部入学を目指していて、その先に留学も考えている皆さんは、ぜひ地道に努力を続けて、自分の目標を掴み取ってください。

ちなみに医学部以外の大学入試における英語に関して興味のある方はこちらの記事もご覧ください。
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